奥入瀬の森【渓畔林+ブナ林】

「緑の谷」である奥入瀬の森を構成する主要な樹種はトチノキ、カツラ、サワグルミの3種です。渓流沿いに生息する森を渓畔林(又は渓谷林)と呼びますが、これら3種はブナ帯における渓畔林の優占種で、そのまま奥入瀬の森の主役となっています。河岸でも水はけのよい所や、谷の中に発達した河岸段丘(流路より高いテラス状の場所)などにはブナとミズナラが目立ちます。北日本の落葉広葉樹を代表する二大樹種です。特にブナは渓谷内の所々でパッチ状のまとまった林をつくっているほか、谷の中腹から上部にかけて広く分布しています。渓谷の谷底という環境は、日の当たる時間が限られています。こうした環境に生育する樹木は、少しでも多くの光を求めてできるだけまっすぐに伸びようとします。奥入瀬の高木がいずれも「背高のっぽ」なのはこのため。そして、渓谷の樹種は葉をできるだけ多く(又は大きく)することによって、短い日照時間の中でできるだけ多くの陽の光を受け止めようとします。そのため大径木が多くなりますが、谷底の土壌は不安定。大きな体を支えるため、多くの樹種が岩を抱くように根を伸ばしているのです。
奥入瀬の基本的な森林構成
トチノキ

トチノキ
カツラ

カツラ
ブナ

ブナ

隠花帝国

岩・樹幹・倒木・石垣・橋の欄干など、あらゆるものがコケに覆われ、林床はシダの海が広がり、ブナの樹皮は地衣類が着生、腐倒木には多彩な菌類や変形菌が出現します。こうした「花をつけず胞子で増えるものたち」は、かつて博物学的な総称として「隠花植物」と呼ばれました。奥入瀬は、まさしく北国の「隠花帝国」です。南八甲田連峰の南東麓に位置するため、冬は大陸からの季節風(北西風)によって大量の降雪に見舞われます。その水は奥入瀬の谷の上部に広がるブナ林に貯えられ、谷底は常に水が供給される集水域となっています。梅雨から盛夏にかけては、北太平洋に発達する高気圧からの北東風・ヤマセが、屏風のように立つ奥羽山脈にぶつかり渓谷にとどまることで、豊かな空中湿度をもたらします。また奥入瀬の水源である十和田湖は、湖自体が天然のダムの役割を果たし、渓流の水量安定に寄与しています。それが流域内の着生植物の生育を助けてきました。火山期起源の岩のことごとくに、大小の樹や草が生えています。風や鳥や動物たちによって運ばれたタネが芽を出し、成長するまでには、その岩を覆った緑の敷布の力添えあってのこと。またそれらを土に還し、新たなベースを醸してきたのは菌類のパワーです。種子や稚樹の「ゆりかご」をつくってきたのは、まさに隠花植物たちです。地形・気象・植生という3つの条件があいまってつくりだされた驚異の世界、それが隠花帝国なのです。
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