死に至る危険性もあるスズメバチによる刺傷事故
夏から秋にかけ「スズメバチに刺された」という事故が全国的に起こります。スズメバチによる刺傷事故は、時に死に至ることもある、非常に危険なものです。
野外活動における「危険生物」というと、クマや毒蛇を思い浮かべる方がほとんどですが、年間死亡例としてはスズメバチの刺傷によるものが最も多いのです。毎年20名前後が命を落としており、2017年には、全国で13名が亡くなっています。
登山や釣り、ハイキング、山菜採りなどの野外活動では、クマや毒蛇に襲われるよりもスズメバチに刺される危険性の方がずっと高いのです。刺されないための予防と、刺された後の適正な対処法を身に着けておくことが重要です。
スズメバチはなぜ人を襲うのか
スズメバチの人への攻撃は防衛行動です。そのほとんどは、自分や巣を守るための襲撃とされています。ふだんは巣材を集めや幼虫の餌となる昆虫を求め森の中を移動していますが、そのような時のスズメバチに出逢っても、無闇なちょっかいをかけたりしない限り、さほど危険はありません。
しかし近づいてきたスズメバチを手で払い除けようとしたり、こちらから巣に接近したりすると状況は一転します。
特に、スズメバチの巣から10メートル以内に近づいてしまいますと、ハチたちに外敵とみなされ猛攻撃を受けることになります。
※オオスズメバチは、まれに樹液の滲み出た幹などの餌場に近づいただけでも襲ってくることがままありますので、注意が必要です。
スズメバチに刺されるケースとして最も多いのは、巣に近づいてしまった時です。ハチは種類によって、樹洞、木の根元、土中、木道の下、東屋、岩壁など、さまざまな環境に巣を作ります。
巣があることを目で確認できればよいのですが、オオススメバチやクロスズメバチは土の中に巣を作ることが多く、接近するまで巣の存在が分からないということが少なからずあるのです。
たくさんのスズメバチを同所で見かける、向かってくる、執拗につきまとう、空中でホバリングしながらカチカチという顎をかみ合わせた音を出す(オオスズメバチ)、などの威嚇行動が確認された場合には、「近くにスズメバチの巣があるのかもしれない」という認識を持って警戒し、すみやかにその場を立ち去るべきです。
スズメバチの毒性
スズメバチの毒は強く、複数の化学物質で構成されていて、痛みやかゆみ、筋肉の萎縮、組織の破壊、心臓や呼吸の麻痺などを引き起こすおそれがあります。ただし水に溶けやすいものなので、刺されたらすぐに水で患部をよく洗うことが効果的です。
毒針と呼ばれる部分は、産卵管を固く変化させたもの。ミツバチなどは1度しか刺すことができませんが、スズメバチは何度でも刺すことが可能です。1匹のハチが持つ毒は微量であっても、群れに襲われて複数のハチに同時に刺されることによって、毒性分も増します。
アナフィラキシーショックとは
スズメバチによる刺傷で、最も気を付けなければならないのは「アナフィラキシーショック」と呼ばれる症状です。
これはハチが持っている酵素系の毒に対するアレルギー反応の一種です。呼吸困難や血圧低下などを引き起こし、重篤な場合は死に至ります。過去にハチに刺されたことがあり、身体の中にハチ毒に対する抗体が作られている人は、再び刺された時にアナフィラキシーショックを起こす可能性が高くなりますので注意が必要です。
なお、初めて刺された場合でも、いちどに複数回刺傷されてしまい、毒の注入量が多い場合にはアナフィラキシーショックを引き起こすことがありますので油断なりません。「ハチに刺される」ことへの警戒は、野外では決して怠ってはならないことなのです。
※刺された人の約10~20%がアナフィラキシー反応を発症し、うちの数%が重症化すると見られています。医療機関での診察によって、自分がアナフィラキシーショックを起こす体質かどうかを調べることが可能です
スズメバチによる事故を予防するには
(1)巣に近づかない
人間側がスズメバチの巣の存在に気づかず、不用意に近づき過ぎてしまった時、襲撃が起こります。まずはスズメバチを見かけたら警戒心を持ちましょう。遊歩道の木道下に巣が作られ、通行の際の振動による刺激で刺傷事故が起こった不可避的なケースもあります。ビジターセンターなどには散策マップにハチの出没情報などが記載されている場合もありますから、事前の情報収集を心がけることも必要です。
(2)黒い服を避ける
ハチが興奮してた際、最初に刺すのは黒い色であるとされます。まずはハチを刺激しないことが大切ですが、黒い服を避けることも予防対策としては有効でしょう。
(3)ニオイの強いものは避ける
香水や整髪料はハチを誘引してしまいます。森に入る時には、過度にニオイを発しないよう注意してください。また甘いジュースやお菓子などにもハチは集まってきます。飲み残しには十分気をつけましょう。
(4)威嚇行動を読み取る
襲撃の前の威嚇行動を察知しましょう。少しでも気になる行動が見られたら、すぐにその場を立ち去ることが賢明です。
◎離れずにいつまでもまとわりつく
◎ホバリングを行い、こちらを向き続ける
◎羽音が異常に大きくなる
◎カチカチという顎を咬み合わせた音を出す(オオスズメバチのみ)
ハチによる刺傷に備えておきたい器材・薬
◎ポイズンリムーバー
ハチ毒をはじめ、刺傷や咬傷の生物毒を吸い出すのに効果的です。時間が経ってしまうと効果が無いので、直ぐに使用することがポイントです。
◎エピペン(エピネフェリン自己注射器)
エピペンは、激しいアレルギー反応(アナフィラキシーショック)が現れた際に使用し、救急隊や病院などの高度治療を受けるまでの間、症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助的な治療剤です。病院で診察を受け、処方された場合に購入できます。
※正しい使い方を身に着けて使用しましょう
※使用期限がありますので注意しましょう(約1年間)
※1本では効かない場合もありますので、重度の方は複数本所持すると安心です
◎抗ヒスタミン剤・ステロイド軟膏
刺傷による炎症を鎮めたり、赤身や痒みを抑える成分があります。ハチ毒に限らず、皮膚の炎症や虫刺されなどにも効果あり。
※「ハチの毒はオシッコをかければ効果的」というのは俗信です
スズメバチに刺されたらどうすればよいか
まずもって、刺された後の症状が「局所」症状なのか「全身」症状なのかを見きわめる必要があります。いいかえれば、アナフィラキシーショックを起こしているのかどうかを見きわめなくてはならないということです。
■局所症状=刺された場所の痛み・痒み・腫れなどのみの場合
ハチの毒に対するアレルギー反応が強くなければ、刺された箇所の局所的な痛みや腫れなどでおさまります。30分ほど経過しても全身への影響が出てこなければ、局所症状のみと判断してもよいでしょう。
(1)急いで安全な場所(刺された場所から10~20メートル以上)まで逃げてから、以下の手当を行います
(2)ポイズンリムーバーで毒を出し、清潔な水で患部を水洗いします
※水がなければ刺された場所を指でつまみ、毒を絞り出します。口で吸い出してはなりません
※ミツバチに刺された場合は皮膚に針が残りますので、カードのような薄い板状のもので引っかけて針を取り除きます
(3)抗ヒスタミン剤やステロイド軟膏を塗布し、滅菌ガーゼなどで傷口を保護します
(4)傷口を冷やします
■全身症状=体のしびれ、めまい、けいれん、嘔吐、異常な動悸、全身の蕁麻疹、呼吸困難、意識レベルの低下、ショック症状による循環不全(顔面蒼白や体温の異常)など
全身症状が見られた場合は、アナフィラキシーショックの可能性が高いです。その疑いがある場合は一刻も早く救急車を呼び、医療機関へ搬送しなくてはなりません。早ければ15分ほどで死亡する場合もあります。迅速な行動が求められます。
(1)急いで安全な場所まで逃げてから、すぐに救急車を呼びます
(2)エピペン(エピネフェリン自己注射キット)があれば使用します。エピペンを持っていない場合はポイズンリムーバーで毒を出し、清潔な水で患部を水洗いします。水がない場合は刺された場所を指でつまみ毒液を絞り出します。口で吸い出してはなりません。傷口を滅菌ガーゼなどで保護して患部を冷やします
(3)症状悪化に備え、気道確保しやすい回復体位を取らせます。ショック症状への対応として、保温など行い、また必要に応じてCPRやAEDの処置も行います