捻挫への対応
「捻挫」とは、関節部をひねることによって、骨と骨をつないでいる靭帯(じんたい)が損傷してしまった状態をいいます。症状がひどい場合は、強い痛みと腫れ、皮下の内出血を引き起こします。野外においては「捻挫」と「骨折」の見極めは難しいことですが、体重を支えられず、歩行が難しい場合、足首まわりに圧痛点(押すと痛い)が顕著である場合、激しい痛みを伴う場合、等で重症かどうかのジャッジ(判断)を行います。症状がひどい場合には安静にすることが基本です。具体的な対処法としては「RICE処置」が基本となります。RICEとは、以下のそれぞれの対処法の頭文字を取ってつなげたもので、ゴロがよいため覚えるのに便利です。
■Rest (安静)
患部をなるべく動かさずに安定させ、休ませること。脚や膝など、患部に体重がかかることで痛みが出る場合、座らせる・寝かせるなど、楽な体勢を取ります。重症の場合には、動きを制限するため副木(ふくぼく)やテーピングなどで固定します。副木とは、骨折した部分や関節などを臨時的に固定する器材のことです。
■Ice(冷却)
流水や氷で患部を冷やすアイシングをしっかり行います。これにより痛みと腫れが落ち着き、予後の回復も早くなります。一般的な方法としては、ビニール袋に氷を入れ、患部にあてます。患部に直に氷をあてるのではなく、ガーゼや薄いタオルなどで患部を守るとよいでしょう。なお湿布やコールドスプレーなどによるアイシング効果はあまり高くありません。患部の冷却は15分から20分ほど行い、1~2時間の間隔をあけ、24時間から72時間ほど継続して行いましょう。患部のまわりの広い範囲を、感覚がなくなるくらいまで、しっかり冷やすことがポイントです。ただし冬季の寒冷なフィールドで患部を冷やすと凍傷になる恐れがあります。しっかりしたアイシングは、安全な場所に戻ってから行いましょう。
■Compression(圧迫)
患部の内出血(内部の組織が傷ついて毛細血管が出血している状態)や腫れを抑えるために、バンテージやテーピング等を用いて、腫れている患部を中心に軽く圧迫を行います。伸縮性のバンテージ(包帯)を用いるのが一般的ですが、あまり強く圧迫し過ぎると循環障害を起こしてしまうので注意です。患部の先が青くなってきたり、痺れが出てくるようであれば、圧迫が強過ぎると判断して弱めます。
■Elevation(挙上)
患部を心臓より高く上げることにより、内出血や痛みを緩和することができます。就寝時には、枕やクッションなどを用いて患部をより高くするとよいでしょう。
予防策
足首全体を守る靴を履き、しっかりと靴ひもを結ぶ。歩く際には歩幅を狭くし、のんびりと進むことです。
便利なテーピングテープ
汎用性のあるテーピングテープは万能です。足を捻挫した時の固定にも使えますし、靴底が剥がれた時の修理、道具のリペア等にも使えます。三角巾などを使った足首固定のやり方もありますが、テーピングテープの方が固定力は強く、より実践的です。応急処置レベルでのテーピングの巻き方は、書籍やネットでも紹介されています。野外散策には、ぜひザックに入れておくべき備品です。
転倒によるケガへの対処法
野外で転び、身体に強い衝撃がかかった時には、以下のような危険性があります。
・身体から倒れこんだ時 ⇒ 頭蓋骨の骨折・首の骨折、肩の骨折・脱臼
・手をついた時 ⇒ 手首の骨折、肘の脱臼
・お尻を強く打った時 ⇒ 尾てい骨、腰椎の骨折
四肢の骨折の場合、基本的な対処は、前述の「RICE処置」となりますが、頭や首、腰を受傷した場合の対処法は異なります。脳や神経系へのダメージを考慮し、それ以上悪化しないよう安定化させる注意が必要です。※前回のコラム参照
四肢の骨折は重症度により、神経系へのダメージや循環への障害を引き起こすおそれがあります。骨折が疑われる大きな怪我の場合は、すみやかに医療機関の診断を受けましょう。
ショック症状
胸や腹部への強い衝撃は、目に見える外傷以外に、身体内部の臓器が内出血を起こす可能性もあります。臓器の内出血は身体の循環不全を引き起こし、体内の酸素が欠乏する「ショック症状」につながり、最悪の場合は死に至るケースもあります。内出血によるショック症状が疑われる場合には、ただちに医療機関の診断を受けてください。ショック症状の兆候には以下のようなことがあげられます。
・顔面蒼白
・皮膚がじっとりしてくる
・呼吸のみだれ
・脈拍数の異常
・血圧低下
・手足の異常な冷たさ、爪の色(循環不全)など
枝が刺さった場合の対処法
先端が尖った小枝、ツリバナなどの尖った樹木の冬芽などは、時として非常に危険な突起物となります。冬の森で転んだ際に、ツリバナの冬目が耳に入り、鼓膜を破いてしまったという実例もあります。もし枝のような突起物が刺さった時には、まず「刺さったものを抜かない」ということが重要です。刺さった異物が止血栓をとして機能しているため、大量の出血を防いでいてくれるからです。患部の状況をしっかりと観察した上で、重大な出血がないかを調べます。出血がひどい場合には、傷口の周囲を清潔なガーゼ等を用いて直接圧迫を行います。ただし物体が刺さっており、危険度が不確かな場合には、現場から動かさないように安定させ、直ちに救急隊を呼びましょう。短い枝等が刺さった場合で、切断可能な突起物であれば、皮膚の近くで切断処置を行います。
目に異物が刺さった場合
枝などが目に刺さるケースも想定されます。目の怪我は一刻も早い専門的な医療手当が必要で、私たちが行えるファーストエイドは「悪化」を予防することだけです。刺さった異物を引き抜こうとしたり、目をこするようなことは決して行ってはいけません。処置の方法は①清潔なガーゼなどで止血と固定を行う②両目を包帯で止める、の2点です。①は、スリットを入れたガーゼで患部を止血点・固定したり、紙コップの様なものを刺さった物体の上から被せて保護する方法があります。②は、人間の目が右と左が連動して動く原理から、怪我をしていない方の視界も遮ることによって、怪我をした方の目の動きを制限します。両目を塞いだ場合には、患者が強い不安に襲われ、パニック状態になることもあります。傷病者を落ち着かせ、不安を軽減させることも重要です。