<上/ツタウルシの実を食べるアオゲラ>
前回、奥入瀬の冬の森の鳥は、大きく5つのグループに分けられる、というお話をしました。今回はそれについて具体的にご案内しましょう。
(その1) カラ
(その2) ケラ
(その3) ことり
(その4) ずんぐりむっくり
(その5) タカ
ずいぶん簡単(というか、いいかげん)そうなグループ分けですけれども、語呂もなかなかよくて(?)初心者の方でも記憶に残りやすいのではないかと思います。では、この暗号のようなカテゴリー、いったい何を示しているものなのでしょうか。
その1 カラ
シジュウカラの仲間のことです。シジュウカラ、ヤマガラ、コガラ、ヒガラがおり、ふつう、ひとまとめに「カラ類」と呼ばれています。冬の森では、この4種類がそれぞれ入り混じった混群をつくっています(夏はそれぞれ種類ごとに暮らしています)。冬の森を歩けば、まずこの仲間に出逢います。ここにゴジュウカラやキバシリ、キツツキであるコゲラやアカゲラといった他の種類も加わってきて、カラ類の混群はますます大きく、そしてにぎやかになっていきます。エナガの群れがカラ類の群れを先行していることもよくあります。彼らは一緒に冬の森をゆっくりと巡回しています。そして、さほど人を警戒しません。森のバードウオッチングにおける初歩の観察―見つける・双眼鏡に入れる・種類を識別する・行動を観る—その練習対象として、これくらい最適なグループは他におりません。
その2 ケラ
こちらはキツツキの仲間のこと。アカゲラ、アオゲラ(トップの写真です)、コゲラ、オオアカゲラがいます。クマゲラという、真ッ黒で大きなものもいますが、残念ながら、いまの奥入瀬では、おそらくまず目にすることはないと思います(かつてはそれなりに見られたと聞きます)。いずれも名前の最後に「ゲラ」が付きますね。これは「ケラ」が濁ったものです。むかしキツツキは「テラツツキ」「ケラツツキ」と呼ばれていて、その呼称が縮められて「ケラ」となったといわれます。つまりアカゲラとは「アカケラツツキ」の略称というわけです。「ケラ」というのは、実は「テラ」の転訛した言葉とされています。オケラという昆虫がいますが、「虫をつつく」という意味での「ケラツツキ」ならばわかりがよさそうですが、それが「テラ」では、いったいなんのことやらですね。寺をつつくからであるとか(寺ではありませんが、以前古い木造の家に住んでいたとき、アオゲラに家をつつかれたことがあります)、キツツキ類の金属的な鳴声(キョッとかケケッとかキャキャッといったもの)を表すものであるとか、諸説があります。ただいずれにせよ、「カラ類」とはいっても「ケラ類」とはあまり呼ばれません。ちなみにコゲラは、名の通りミニサイズのキツツキで、冬は前項の通りカラ類のグループにたいてい混じっています。なおコガラとコゲラの名称は初めのうちは間違いやすいので、気をつけておきましょう。
その3 ことり
小鳥のことです。これまたずいぶん乱暴な区分けです。要するにこれは、冬の森で見られるアトリ類・ホオジロ類の総称として使っています。冬の森の梢に集団でとまっている小鳥たちがいたら、図鑑の「アトリ科」の鳥の項目に出ているマヒワ、ベニヒワなど、また「ホオジロ科」のカシラダカなどの可能性が高いです。ちょっと開けた場所では、群れは作りませんがベニマシコやミヤマホオジロを見かける機会にも恵まれるかもしれません。渓流ではカワガラスとミソサザイをよく目にしますが、こちらも「ことり」のグループでよさそうです。
その4 ずんぐりむっくり
そういう体型をした鳥たちをひとまとめにしたものです。レンジャクという鳥(キレンジャク、ヒレンジャクの二種類がおります)、ツグミの仲間(真冬は概ねツグミ一種しかおりません)、ヒヨドリやカケス、そして「アトリ科」のウソ、イカル、シメなどがここに入ります。カケス同様、カラス類もこのカテゴリーに分けられますね。また冬の森の鳥というのとは、少しカテゴリーが異なるかもしれませんが、渓流で出逢うヤマセミというカワセミの仲間もずんぐりむっくりした体つきをしています。
その5 タカ
奥入瀬で見られるタカ類(猛禽類)はクマタカ、オオタカ、ハイタカ、ノスリ、たまにハヤブサなどですが、一年を通じて生息しているのはクマタカくらい。たまにノスリほかを見かけることもありますが、少ないです。ノスリの多くは雪深い奥入瀬の山をおりてしまい、雪の少ない十和田市内から海岸寄りに移動してしまうからです。オオタカとハイタカは春から晩秋まで。特に渡りの時季である春と秋に視認率が高まります。ですが冬にクマタカ以外まったく見られないのかというとそうでもありません。近隣で越冬中のものが移動の際、奥入瀬上空に姿を見せることもあります。木々の葉っぱがないため見通しがよく、上空通過の鳥を発見しやすい、ということもあるのではないかと思います。
いつも見かける「森の常連さん」たちを、このようにグループ分けしておくと、より親しみやすくなれます。バラバラに覚えようとするのではなく、関連付けて整理しておくのです。そうすると、やがて頭の中に鳥たちの「関係図」ができあがっていき、いざ知らない鳥に出逢ったときにも、きっとそれが大いに役立つことになるでしょう。