
なぜ川は落ち葉であふれかえらないのか
渓谷林は、渓流にいろいろな影響を与えています。
その最たるものが「物資の供給」です。
川のほとりの森からは、落葉、落枝、落花、時に倒木。そして昆虫などの生きものが、日々大量に降ってくるからです。
しかし川が落葉であふれかえってしまった、という話は聞きません。
流れが、すべてを下流に運び去っているからでしょうか?
でも、川からの落葉で海がいっぱいになった、などという話も聞いたことがありません。
つまり、川に落ちた大量の落葉を「片づけている」誰か、裏方のような仕事をもくもくとこなしている誰かが存在するということです。
そのひとつが「水生昆虫」と呼ばれる生きものたちです。
大量に降った落葉が川の中で「消えてゆく」のは,葉っぱの組織や成分が水に融け出してしまうこと,
そして微生物による分解などももちろんありますが,
水中で生活している昆虫たちの「餌」として利用されていることも、その大きな要因となっているのです。
落葉の掃除人・シュレッダー
水生昆虫には、ヤゴと呼ばれるトンボの幼虫や、ホタルの幼虫、またゲンゴロウやミズカマキリなど、いろいろな種類があります。
特に奥入瀬のような渓流域では、釣り人などから「川虫」とも呼ばれる、カゲロウ、カワゲラ、トビケラと呼ばれるグループが多く暮らしています。
いずれも幼虫時代を水中で過ごし、羽化して成虫になると、川辺の森や叢で過ごす昆虫たちです。
ひと口に水生昆虫といっても、食べものにはそれぞれ好みがあり、落葉を噛み砕いて食べるもの、川底にたまった有機物をかき集めて食べるもの、水中の石に付着した藻などを食べるもの、小動物を食べるものなど、さまざまです。
このうち、落葉を食べる水生昆虫は、特に強力な歯を持っていて、堅い落葉もバリバリ食べてしまいます。
その様子からシュレッダー(破砕食者)などと呼ばれており、種類としてはトビケラの仲間が多いようです。
水中に暮らす虫たちが、こうして落葉を食べていくことで、それらは細かく分解され、やがては水に融けてしまうのです。
落葉から考える「つながりあいの美」
森から渓流へと落ちた、一枚の葉っぱ。
それを食べて育った水生昆虫が、鳥や魚の糧となる。
その鳥や魚を、森のクマやテン、キツネやタヌキなどが捕えます。
彼らはいつか、森で死にます。菌類が分解し、森の滋養となります。
森から川へ移ったものが、動物を通し、再び森へ還っていくのです。
森と渓流は、生きものたちを通し、かくも密接に結びついています。
緑あふれる奥入瀬渓流は、こうした自然の姿をあるがままに観ることのできる場所です。
水と緑の曼陀羅の奥にある「つながりあいの美」もまた、奥入瀬の魅力のひとつなのです。