フォーラムやシンポジウムの開催
奥入瀬をフィールドミュージアムとして位置づける時、そのエントランス施設となる、「博物館」機能および「ガイディング」機能を併せ持ったミュージアムセンターの必要性について述べてきました。このセンターは、奥入瀬の自然の価値や保護の重要性、その活用や展開について、地域住民および来訪者の理解を得るため、各種「講座」や「観察会」を実施したり、ワークショップや研修講師を招聘した講演会、各種フォーラムやシンポジウムの開催会場としても機能させることが可能です。
2014年には日本蘚苔類学会大会が奥入瀬で開催されました。蘚苔類の専門家だけでなく、アマチュアのコケ愛好家も集い、研究発表、講習会、総会、野外観察会などが行われました。蘚苔類学会を奥入瀬に招聘しえたことは、奥入瀬がコケ植物の宝庫であることを広く知らしめるよい機会でした。その会場は、渓流の玄関口にあたる焼山にある星野リゾート奥入瀬渓流ホテルでしたが、ミュージアムセンターがあればそちらを利用することができたでしょう。
蘚苔類学会と同様に、日本地衣類学会や菌類学会など隠花植物系の学会、渓谷林環境の特色を生かした森林関連や自然河川関係のシンポジウム、ネイチャートレイル(=フットパス)関連のフォーラムの開催なども可能です。奥入瀬におけるこうした学会の開催には、当地が「アカデミックな観光地」をアピールしようとしていることを、全国に印象づける効果が期待できるでしょう。奥入瀬が通り一遍の景観観光地ではなく、エコツーリズムに特化した地であるというプレミア感(ブランド感)をニュース性をもって伝えることができるからです。これは当地の理念とビジョンをより明確なアピールとして喧伝することになるでしょう。
各分野の学会を開催することで、国内外の専門家を奥入瀬に招集できることは、各界の専門家へと奥入瀬の自然の魅力をアピールできる、このうえない機会ともなります。特に、国外の研究者や自然愛好家へダイレクトに奥入瀬の存在を広報できるのは、大きな利点です。世界的な潮流となりつつあるエコツアーの海外客層への誘致にもつながる可能性が生まれます。そのアピールは、国内のエコツーリズムに特化した客層の増加にもつながっていくことでしょう。
奥入瀬フィールドミュージアムセンターの具体的な機能
こうした観点から、奥入瀬にフィールドミュージアムセンターができた場合、どのような活用方法があるのか、その具体的な内容を以下に紹介しておきたいと思います。
1. インフォーメーション(情報提供)機能
・季節ごと、年ごとのリアルタイムの自然情報をガイドや地域住民から収集し利用者に提供する情報収集基地
・ビジターへの散策アドバイス、また相談への対応
・地域の自然の概要と要点をレクチュアする(⇒自然誌博物館機能)
2.インタープリテーション機能
・ネイチャーガイドの常駐と派遣(ガイドセンター機能)
・ガイド受付窓口の一元化
・展示物の案内と解説
・フィールドミュージアムバスの運行
・市民向けネイチャーツアー(観察会)の実施
3.リサーチ(調査・研究)機能
・各分野における独自の環境基礎調査
・大学および研究機関との連携による調査研究活動の拠点
・調査研究データの集積と解析
4.自然誌博物館&美術館機能
・調査研究データの保管(管理)
・集積された知見やデータ、標本などの環境教育や調査活動での活用サポート
・奥入瀬の自然環境に関する資料収集
・展示および解説(⇒インタープリテーション機能)
・地域の自然を主題としたアート作品の展示およびその製作を通した自然資産活用のサポート
5.環境教育機能
・地元小中高校生ほかの地域環境学習
・市民大学的機能
6.研修機能
・各種研修会や学会、シンポジウム、フォーラム等の開催
7.ガイド育成機能
・ネイチャーガイドの育成プログラムの構築とその実施
8.商品開発&物販機能
・自然情報の商品化(ガイドブック、図鑑、写真集、ポストカードなど)
・地域の自然の特性を生かした土産品の開発と販売(自主財源)
9.地域プロモーション機能
・エコツーリズム推進地としての奥入瀬のイメージプロモーション基地
・ホームページ等を通じ自然情報や保全活動および利活用に関する情報発信
10.市民交流機能
・市民活動との連携(環境保全や環境教育に関連する行事の主催や受け入れなど)