裸木に輝く愛すべき目玉おやぢ 裸木に輝く愛すべき目玉おやぢ ナチュラリスト講座 奥入瀬フィールドミュージアム講座

裸木に輝く愛すべき目玉おやぢ

薄いオレンジ色をした小さな珠(たま)を見つけました。十和田湖畔の岩場の、浅い水たまりの上にひとつだけ、ぽつんと落ちていました。ヤドリギの果実です。その様子はなんとなく、お椀風呂を楽しむ「鬼太郎の目玉おやじ」を思わせました。もっとも、かの「目玉おやじ」よりは、こちらの方がはるかに愛らしい感じはしましたが。

ヤドリギは「寄生木」とか「宿木」と書きます。御存知の通り、他の樹木に「寄生」して生きている、ちょっと不思議な存在です。木に宿を借りるから「宿り木」、木に寄って(すなわち頼って)生きるがゆえに「寄生木」です。ただし「寄生」とはいっても、相手にまったくのおんぶにだっこ、というのではありません。着生する相手の木からは確かに水分や養分をもらってはいますが、光合成については実は自分でもちゃんと行っているからです。なので、ヤドリギは「半寄生」木ともいわれます。

<こんもりとした「くす玉」のようなかたまりがたくさん>

落葉樹が裸となる季節、奥入瀬渓流沿いではそれほど目につくというわけでもありませんが、源流の十和田湖に出てみると、岸につらなる森のブナやミズナラ、ケヤキ、オオバボダイジュなどの大木のてっぺん近くに、こんもりとした「くす玉」のようなかたまりが、かなりたくさん付いているのが自然と目に入ってきます。木々はすっかり葉を落としているというのに、その「くす玉」ときたら、実に生き生きとした緑色をしているのです。なのでどうしたって目を引きます。 それがヤドリギです。 厳しい冬にも枯れることのない、常緑の広葉樹のかたまり。 そしてこの愛らしく美しい果実も、ちょうど裸木の時季、すなわち冬から春にかけて実ります。ヤドリギはふつう樹木の高いところに着生していることが多いので、たまたま低いところに付いているものといきあったり、風などで実の付いた小枝ごと落とされたものを拾うかなどの機会があれば、ぜひゆっくり観察してみたいもの。この日は、どういうわけかまるい実がひとつだけ、湖畔の岩場の水たまりに落下していました。ふるふると震えているかのように見えました。

赤橙色をしていますから、どうやらこれは「アカミヤドリギ」のよう。実の赤いヤドリギという意味です。普通のヤドリギの実は黄色いのです。でも、ひとつの木のかたまりの中に「赤い実」と「黄色い実」とが入り混じって見られる、そんなものにも時折、出逢うことがあります。実の色の差には、さほどの意味がないのでしょうか。いずれにしても、とても美しい果実です。特に冬の午後の、やわらかな微光を浴びた時のうっすらとした輝きときたら見惚れてしまいます。それは橙色でも黄色でも同じです。「目玉」のように見える黒い部分は、雌しべの柱頭(ちゅうとう)のなごり。柱頭とは、雌しべの先端部分のこと。花粉を受け入れ、受粉が行われる部分のことです。とてもユニークなデザインです。いかがでしょう、ごくごく小さな「目玉」には、見えてきませんか。

<黄色の果実―奥入瀬ではアカミの方がふつうです>

この実を口にしたことはありませんが、生食した人の話では、ほんのりと甘味があったということ。人が食べても甘いものなら、鳥にとってはさぞかし御馳走なのではと想像してしまいます。人がとても呑み込めないようなマズイ木の実も、鳥たちがせっせと食している姿を目にすると、ついそんなふうに思ってしまいます。ヤドリギの実が、レンジャクと呼ばれる鳥たちの大好物であることは、よく知られています。実の内部には、まるで餅のような、たいへん強い粘りを持った部分があります。べとべとしていて、長い長い糸を引くのです。その実を鳥が食べ、その粘った部分を種子とを一緒に糞として排泄すると、それが木の枝や幹にべっとりと付着します。そして、そこから新たに種子が芽生えてくるというわけです。

<レンジャクの糞?それとも、ただ果実が熟して落ちたもの?皮と種子がはっきり見えます>

昔日には、この実の粘りを利用して、野鳥を捕まえる鳥モチを作りました。鳥の好物が、鳥自身を捕まえる「罠」と化すのですから、なんだかちょっと皮肉な話ではあります。でも飢饉の時には、人もこの実を積極的に食したという話もあります。デンプン質の豊富な枝や葉は、家畜の餌にもなりました。朱珠・黄珠のいずれも、ホワイト・リカーに漬け込めば、甘く薫る黄橙色のリキュールができるという話もあります。こちらはなんだかちょっとおいしそう。残念ながら、まだ試したことはありません。冬の季節の宝石ともいえる愛すべき「目玉おやじ」を、ただただ鑑賞するだけにとどまっています。冬の鳥たちもきっと、この緑のくす玉に散りばめられた、ほんのりと美しい輝きに魅かれて集まってくるのでしょう。

ナチュラリスト講座

奥入瀬の自然の「しくみ」と「なりたち」を,さまざまなエピソードで解説する『ナチュラリスト講座』

記事一覧

エコツーリズム講座

奥入瀬を「天然の野外博物館」と見る,新しい観光スタイルについて考える『エコツーリズム講座』

記事一覧

リスクマネジメント講座

奥入瀬散策において想定される,さまざまな危険についての対処法を学ぶ『リスクマネジメント講座』

記事一覧

New Columns過去のコラム