
森にいだかれた渓流
奥入瀬には、流れのほとりから谷の斜面にいたるまで、たくさんの樹木が生育しています。
水源である十和田湖から、渓流が「奥入瀬川」と名を変える蔦川との合流点までの全区間(14キロ)が、
すっぽりと森につつまれています。
奥入瀬は、まさに森にいだかれた渓流といえるでしょう。
渓流沿いに発達した森林は、渓谷林(けいこくりん)または渓畔林(けいはんりん)などと呼ばれます。
上流域の森を渓谷林、中流域を渓畔林、下流域を河畔林と呼び分けることもあります。
奥入瀬渓流とは、奥入瀬川の上流域区間を指す名称なので、全域を渓谷林と称してもよいのですが、
場所ごとに観ていくと、河畔林と称したくなる箇所もあります。
いずれにせよ全国屈指の規模を誇り、しかも巨木の多いことで知られます。
奥入瀬の樹木
奥入瀬の渓谷林を構成している樹木は、ざっと100種類ほどでしょうか。
なかでも奥入瀬の樹木「御三家」と称したくなる、代表的な樹種があります。
トチノキ・カツラ・サワグルミの3種です。
ここにイタヤカエデ・ハウチワカエデ・ヤマモミジなど、秋の紅黄葉で知られる樹種が混じってきます。
川幅の広くなる渓流の下流側は、ハンノキやヤナギなどが目立ち、渓谷林というよりは河畔林の様相です。
川岸よりも一段高くなった、比較的土地の安定したフラットな場所(河成段丘といいます)や、 谷の上部などにはブナがまとまって居並んでいます。
森の存在しない渓流は、ただの水の流れにすぎない
奥入瀬渓流の美しさは、広く全国に知られています。
このたぐいまれな景観美をかたちづくっているのは、単に「きれいな水の流れ」だけではありません。
奔放に流れゆく清流をいだいた、原生的な森あってこその美しさです。
森の存在しない渓流は、ただの水の流れであるにすぎません。
もちろん、それはそれでまたちがった魅力はあるでしょう。されど、どこか無機質な感じがします。
生命感に富む、という点において、森のある流れと、それを欠く流れとでは、印象がまったくちがってくるのです。
森と渓流が渾然一体となった、調和の美。
私たちが奥入瀬に感じる美とは、そこにあるのではないでしょうか。

奥入瀬の渓谷林から見える美
奥入瀬散策の際には、清澄な流れだけでなく、ほとりの樹や草やコケの存在にもぜひ目を配ってみてください。
同じような樹が、ただ居並んでいるだけのようでいて、その実、いろいろな樹のあることがわかります。
同じ渓流沿いでも、その場所、その場所によって、主となる樹にちがいのあることも、やがて見えてくるでしょう。
すると森の印象そのものが変わってきます。
奥入瀬の個性的な「表情」が、よりあざやかに見えてくるでしょう。