冬の森の鳥見遊山(その一) 冬の森の鳥見遊山(その一) ナチュラリスト講座 奥入瀬フィールドミュージアム講座

冬の森の鳥見遊山(その一)

鳥見遊山の適期

ぐっと冷え込んだ冬の朝。夜明けの森を歩いてみれば、どんなに暖かという日でも、やっぱり寒さは厳しいもの。ふだんはうんと早起きで、まだ夜の明けきらぬ暗いうちから元気にさえずりはじめる鳥たちも、やっぱり冬は少しおねぼうです。遅い夜明けと共に、ちゃんと起きだしてはいるものの、小声でクチュクチュと仲間同士でささやきあっていたり、ごく緩慢な動きを垣間見せたりするくらいで、いつもの朝の活発さとは、やはりちょっとちがいます。やがて陽が高くなっていき、少しずつ気温が上がっていくと、それにつれ鳥たちの動きもだんだん元気になってきます。ふわふわの、あったかそうな羽毛服に身を包んだ鳥たちでも、やっぱり冬の朝の冷え込みはつらいのでしょうね。

たまさか出逢ったコガラは、そのような中でもけっこう勤勉な一羽で、まだ他の鳥が動き出す前から、さかんに枝移りしたり、枝先にぶらさがったりして、懸命に食べものを探していました。ねぼうなどしていられないほど、お腹がすいていたのでしょうか。ぼんやりとした薄暗がりの森で、スローシャッターを切りました。小さくてすばしっこいコガラの動きが大きくブレ、それが夜明けの森の寒さを感じさせてくれる一枚となりました。

コールドシーズンの早朝散策は、ついおっくうになりがち。しかし冬という季節は、鳥見遊山(=のんびりバードウオッチング)をはじめるのに、実はぴったりのシーズンなのです。鳥を覚えてみたい、とは常々思っているのだけれど、なかなかそのタイミングがつかめない。そういう方は、ぜひ冬からの鳥見遊山をスタートされることをおススメいたします。でもこんなことを言うと「え?」と思われる方もいらっしゃるではないでしょうか。バードウィークというのも5月ですし、なによりもイメージ的に野鳥といえば、フツウ春から夏なのでは? そう思う方は少なくないと思います。

理由その1 見つけやすい

冬こそバードウオッチングをはじめるのに最適なシーズンというからには、もちろん相応の理由があります。まずは、やはりなんといっても冬は鳥を見つけやすい季節なのだということです。木々がすっかり葉を落としてしまうので、枝葉がじゃまをして鳥の姿が探しづらいというデメリットが大きく軽減されるのです。見つけやすいということは、初めての方にとってかなり大事なポイントです。一般に「バードウオッチングの適期」とされる緑の季節には、確かに鳥がたくさん鳴いています。でも「いる」ことはわかっても、葉っぱが姿を隠してしまい「見る」ことがちょっと難しくなってくる、というジレンマが生まれやすいのです。勇んで出かけてはみたけれど、さっぱり姿を鑑賞することができず、ナンダコレ、ちっとも面白くない──こうなってしまうとちょっと残念。けれど、こうしたケースは少なくありません。これを避けるため、バードウオッチングのインストラクターには、最初は誰もが鳥を発見しやすい、オープンエリアの環境、つまり川や湖といった場所を初回の舞台に選定する、そういう人もいるくらいなのです。

<散策中にすんなりと見つけられたアカゲラ。落葉シーズンは野鳥の姿を初心者でも見つけやすいです>

理由その2 覚えやすい

冬の森で見られる鳥はそれほど種類が多くありません。初心者でも識別(鳥の種類を見分けること)がしやすい、すなわち「鳥を覚えやすい」のです。奥入瀬の冬の森の鳥は、少々乱暴ではありますけれども、大きく分けると5つのグループに整理することができます。これについては後段でまた詳しくお話したいと思いますが、東北地方の冬の森にやってくる渡り鳥(=冬鳥と呼ばれます)たちは、夏にやってくる渡り鳥(=夏鳥と呼ばれます)たちに比べると、格段に数が少なくなります。あとはいつも見かける「常連さん」たちがそこに加わるくらいです。いっぺんにいろいろ覚えなくても大丈夫、というわけです。また「常連さん」たちとのつきあいも重視してゆくことで、鳥を見る行為に慣れていけますね。これが、やがて来るべき夏の鳥のシーズンに向けての効果的な「事前練習」にもなるわけです。

<冬の奥入瀬の森でおなじみのコガラ。シジュウカラのなかまです(撮影 諸橋 淳)>

理由その3 親しみやすい

親しみやすいという点も見のがせません。ふだんはやたらとケイカイ心の強い野鳥たちも、冬はやはり慢性的食糧不足なせいでしょうか、餌探しや食事に夢中で、すぐ近くにいるヒトの存在を、それほど気にしなくなるのです。多少の寒さをこらえてしばらく静かにじっとしていると、やってきたシジュウカラの仲間たちのグループにぐるりと取り囲まれてしまうこともあります。野鳥たちにそれなりに近寄ることができ、ゆっくりと見ることのできるという点は、とても魅力的です。

<タニガワハンノキの果穂から種子をほじくりだすのに夢中なマヒワ>

理由その4 朝遅くてもOK

先に御紹介しましたように、春から秋のように、やたら早起きをしなくても、そこそこの時間に出かけるだけで、鳥を見ることができる。この点も、ビギナーにとっては魅力的ですね。夏の朝の鳥のさえずりのピークときたら、夜明けからせいぜい7時くらいまでの間でしょうか。なので本格的に鳥を見よう──つまり、その森のいちばん生き生きした鳥たちの姿を愛でよう、と思うならば、どんなに遅くても朝の4時か5時までには散策をはじめていなければなりません。その点、冬は8時や9時といった時間帯からのんびりと歩きだしても十分でしょう。これも「鳥を見つけやすい」季節のメリットのひとつです。だからといって、あまり億劫がってばかりいないで、たまには薄明の森へと出かけてみて、寒そうに身をすくめる鳥たちを眺めてみるのも一興ですが。見つけやすい・覚えやすい・親しみやすい。そして朝遅くてもOK。冬の森の鳥見遊山には、こんな魅力があるのです。

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