フィールドミュージアム構想実現のために(3の2) フィールドミュージアム構想実現のために(3の2) エコツーリスム講座 奥入瀬フィールドミュージアム講座

ネイチャーガイド育成プログラムとシステムの構築

フィ-ルドミュージアムにおけるガイドは、単なる案内人あるいは解説者のレベルを越えた、エデュケーターでありキュレーターでもあることが求められます。優れたネイチャーガイドは、自然科学から地域の歴史や民俗学までをカバーした、幅広い知見と、その伝達技術を身につけなければなりません。

そのようなガイド育成のためには、よく整理・検討されたプログラム(マニュアル)の作成が必要となるでしょう。以下に示すのは『奥入瀬渓流ネイチャーガイド育成プログラム』の「構成案」です。先進地における育成プログラム内容などを参考に、奥入瀬におけるネイチャーツアー(エコツアー)ガイドに求められる知見・情報、ならびにそれを伝達するためのインタープリテーション技術などの実践的な技法を取り込んで構成したものです。

この素案を「叩き台」として、奥入瀬で活動するネイチャーガイド諸賢がプログラム構築へ参画し、意見交換をし、組織を越えた協力体制のもとで、共に内容の充実化をはかっていくことがベストです。その動きを通して、フィールドミュージアム構想実現のための課題である「地域連携意識」を育んでいくための道筋となることも期待できます。

こうしたマニュアルの作成に対しては批判的な意見も多いものと思われますが、ネイチャーガイドの全体像、方向性、目標設定による段階的な到達感、達成感など、具体的な「指標」というものは、やはり必要なのではないかと考えます。もちろん、それにとらわれ過ぎてはなりませんし、マニュアルに書かれていること以外は何も話せないというのでは困りますが、一方で、同じ地域のネイチャーガイドが、てんでばらばらにそれぞれちがった話をして、あまつさえ誤った知見や情報を伝えていたり、誰がどんな話をどんなふうにしているのか、他のガイドがまったくわからない状況というのは、やはり問題ではないのかと思います。

もちろん、各ガイドがそれぞれどんな話をどんなふうに伝えようが、それは個人の自由な裁量です。決まったスタイルなどありません。ただし、そこには最低限のライン――基礎レベルや根本的なルールといったもの――が設定され、それら共通の認識事項が、各ガイド間においてちゃんと共有・理解されている上のことではないかと思います。そうでなければ、聴く側のビジターは混乱してしまうでしょう。ガイドの印象や評価は、地域のイメージやポイントにも関わってきます。基礎的なマニュアルの存在は、ガイド初心者や希望者の指針・指標として機能するだけでなく、既にガイド活動を行っている者の整理作業やスキルアップにも貢献することにもなるでしょう。

奥入瀬渓流ネイチャーガイド育成マニュアル(構成案)

ガイド研修の定期的な開催と認定制度の復活

ガイド育成プログラムの作成に伴い、ガイド育成のための研修システムの構築も求められます。初心者の育成にあたっては、まずは現役の地元ガイドが講師にあたることが望ましいでしょう。しかし育成プログラムの講師に即時対応できる人材は限られているので、まずは現役ガイド自身が、ガイド育成プログラムの履修と習得を目的としたスキルアップ研修会を定期的に開催・受講し、必要に応じて講師を招聘するなどの体制が必要ではないかと思います。講師に当たる現役ガイド陣は、事前のプログラム構築の段階から、研修の目的や講義内容についての十分な意識共有をはかっておくことが重要でしょう。

研修の継続によるガイディング能力のスキルアップをはかるため、奥入瀬渓流におけるエコツアーガイドの認定登録制度はぜひ復活させるべきではないでしょうか。プログラムの履修者と、試験の合格者には、ガイド認定証を交付することも提案したいと思います。講義に出席すれば誰でも取得できる形式だけの認定登録ではなく、一定レベルの知見と技術の取得を目的としたペーパーと実習による基礎試験制度をあえて課すことで、認定登録ガイドの価値と質の向上を明確に目的化するべきではないかと考えます。

ガイド資格は更新制とし、その維持のためには数年ごとに試験を課することがガイド意識向上のモチベーション維持のためにも望ましいでしょう。認定ガイドに登録されることが、地域におけるひとつのステイタスとなれば、ガイド業を地域の基幹産業にしようとする明確な目的意識にもつながっていくことが期待できます。そのためには登録ガイドになることによって、業務の優遇がなされるような状況が生まれることが望まれます。優れたエコツアーガイドとなるためのモチベーションを常に高く保つために必要なことのひとつに、自然観光が地域文化(地域性)を守る、という認識があります。地域性を「商品」にする観光業において、エコツーリズム推進地におけるネイチャーガイド(エコツアーガイド)の役割は、プロであれ、ボランティアであれ、「地域の顔」であるとの自覚を持つべきなのです。

ガイド対象の「環境教育プログラム」や「野外セミナー」を定期的に開催し、意識と技術向上の維持に努めるためにも、ガイドセンターの早期設置が望まれるでしょう。向上心と目的意識の高いガイド業従事者は、情報交換および定期的なミーティングの場として、この施設を大いに利活用するはずです。また、地域の観光資源調査への参加誘致も積極的に行うことでガイドのボトムアップ効果を狙い、同時に連携意識の向上も期待できます。

さまざまな意識タイプのビジターへの対応

奥入瀬という限られた環境と、保護区という規制のもとで実施されるツアーは、基本的に自然の観察・観賞を主としたものにならざるを得ません。たとえばカヌーやツリーイングなどに代表されるアクティビティ色の強い要素は、たとえやりたくとも取り入れることがかないません。したがって可能な限り、個別のニーズにあわせた多彩なガイディングに磨きをかける必要があります。

「自然と親しむ」ことを目的に奥入瀬を訪れるビジターにも、さまざまな意識タイプのビジターが存在します。樹木をじっくり観察してみたいと思う人もいれば、きれいな花を愛でたいと思う人もいます。バードウオッチングに興じてみたいという人もいるでしょうし、コケの写真を撮ってみたいという人もいるでしょう。自然の中における関心の方向性やその度合いは、個々人によって異なります。

けれど顧客の関心の薄いテーマに関しては、その話題提供を行わないというのでは、ツアー内容に偏りが生じ、地域の自然を総合的に学んでいただくことが難しくなります。どのようなテーマから入っても、それぞれがそれぞれにさまざまな局面で互いに関係しあっていることを紹介・案内し、結果的に奥入瀬の自然について広く深く紹介するということをガイドの「着地点」とするべきではないでしょうか。ゆえに「自然を学ぶ楽しさ」というテーマに対し、興味関心度の高い層から低い層まで、それぞれのレベルに対応した直接的・間接的ガイディング手法が求められるのです。

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