冬のリスクマネジメント 冬のリスクマネジメント リスクマネジメント講座 奥入瀬フィールドミュージアム講座

質問 グリーンシーズンだけでなく、できれば冬の奥入瀬の自然も楽しんでみたいと思うのですが、どのような楽しみ方が可能でしょうか。
また、その際に注意すべきことは何でしょうか。積雪期の森におけるリスクについて教えてください。
回答 おすすめはスノーシューでの森散策

十分な心構えと装備を

奥入瀬渓流沿いの国道は、冬でも除雪作業が行われており、車の通行が可能です。公共交通機関の冬季営業は行われていないので、駐車可能な焼山・石ケ戸・銚子大滝・子ノ口などに車を置き、そこからスノーシューやバックカントリースキーを利用して、渓流沿いの平坦な森の中を散策するというのが冬の奥入瀬の楽しみ方です。奥入瀬でスノーボードや滑降型のスキーは楽しめますかというお尋ねをいただくこともありますが、奥入瀬は基本的に急峻な断崖の谷地形であるため、そういったアクティブ型のウインタースポーツにはふさわしい場所ではないということを、あらかじめ申し上げておきたいと思います。
雪の渓谷林を舞台に、冬でも緑を失わないコケやシダ、時おり姿を見せる樹上の鳥やカモシカなどの野生動物を観察しながら、自在に、静かに歩を進めていくスノーシューでの散策がいちばんのおすすめです。
なお注意すべき点は、他の季節同様、落枝や倒木のおそれがあることですが、冬ならではのリスクもあるので、アクセスやアプローチのよさに油断せず、十分な心構えと装備等が必要です。

服装について

冬の野外活動において最も注意すべき点は服装です。暖かく、動きやすいことが基本ですが、保温性があり、防水・透湿性を備えたウェアを用意することをおすすめします。冬の服装のポイントは、なるべく肌を露出しないで体温の低下を防ぐこと。そして汗対策として肌着には速乾性のものを着用し、レイヤーごとに着分けて、状況に応じたウェアリングを心がけることです。頭部と首をカバーすることが体温を維持するうえで特に重要です。また、冷えやすい手足のために、長時間の野外活動においては替えの手袋や靴下は基本装備のひとつです。手袋、靴下、靴は、循環を妨げないように多少ゆるめのものを履きましょう。足ごしらえ(靴)は、防寒の長靴、ウインターブーツ、登山靴+スパッツなどが望ましいでしょう。

レイヤーとは

レイヤーとは、ウェアを重ね着することを意味します。ありがちなのは、寒いからといって厚着をしてスタートしてしまうこと。すると汗を余分にかくためにかえって体が冷え、不快な思いをするだけではなく、時には疲労によって低体温症になることもあります。レイヤードする(脱いだり着たりする)ことによって調節を行い、行動中も休憩時も、常に体温を適正に保つようにすることが、より快適に冬のフィールドを楽しむための第一歩です。

  • ファースト(ベース)レイヤー=いちばん下に着るもの
  • ミッドレイヤー=中間着
  • アウターレイヤー=いちばん外側に着るもの

ファーストレイヤー

汗をすばやく外に逃がし、すぐ乾く速乾性の素材のものが定番です。最近では非常に高品質なものが開発されています。化繊素材のアンダーウェアやドライテック素材のものが一般的です。なお綿素材は乾きにくいので控えましょう。

ミッドレイヤー

素材、形状ともに選択肢が広く、場合によってはシャツの上に2枚重ねることも珍しくありません。代表的なものにフリースやダウンなどがあります。

アウターレイヤー

アウターシェルとも呼ばれ、外気や風雪から体を防御する役割を果たします。厚みのあるアウターは重く、携帯性も悪いので、冬の野外活動には向きません。ゴアテックスに代表される、透湿性のある防水素材を使った薄手のジャケットやパンツがベストです。ジッパーで開閉できるベンチレーションシステムがあると、なお便利です。

低体温症とは

体温が35℃以下に低下した状態のことです。通常の人間の身体は、体温を37℃±1℃に保っています。さまざまな要因によって、この体温維持のメカニズムが破綻すると、身体全体の温度が低下するために筋肉、脳、心臓、臓器などに機能障害が生じ、時には死にもつながります。一般的に凍死と呼ばれるのは、重度の低体温症になって死亡することを指します。低体温症は、大人から子供まで誰もがなる可能性があります。また夏でも発症し、前兆がほとんどないまま急に発症する場合もありますので、常に意識しておくことが重要です。

体温の喪失

その95%が皮膚から。残りの5%は呼吸によって失われます。風は大気を冷やし、私たちの周囲の暖かい空気の層を持ち去り、代わりに冷たい空気と置きかえます。風速1m/秒につき体感温度は1℃下がります。汗や皮膚の湿気が蒸発する時にも体温が奪われます。体が濡れている時は、乾いている時の約25倍もの早さで体温が奪われます。 冷たいもの(雪、地面、冷水など)に接触すると、熱がそれを伝わって失われます。

低体温症の予防

◎体をできるだけ冷やさない、濡れないようにするウェアリングを心がける

  • →アウタージャケットで身体を覆うことにより、体温の低下を防ぎます
  • →濡れた衣服は早急に乾いたものに着替えることによって、体温の低下を防ぐことができます
  • →雪上に座る時や横になる時には、エアーマットや段ボールなどの断熱材を敷くと熱の損失を防げます

◎エネルギーの補給に気を配る

  • →カロリーの高いものを摂取して、体内で熱を生産します
  • →タバコ、アルコール、カフェインの摂取は控えます

冬の森散策におけるリスク

落雪・落枝・倒木

降ったばかりのやわらかな着雪が樹上から落ちてきても、雪まみれになるだけで済みますが、木の枝やツタが絡まっている場所には、固まって質量のある雪が付着しており、雪とはいえ、岩のように固いものもあります。そんなものが落下してきたら大変危険です。車の上に落ち、フロントガラスが大破することもあります。特に湿った雪が降った後はそのリスクが高まりますので、常に頭上の雪の状態には注意を払い、落雪のおそれのある場所の下はなるべく通らない様にしましょう。通過せざるを得ない時には、状況をみながらすみやかに通り過ぎるよう心がけましょう。また、冬は季節風によって森の中にも強風が吹き荒れることが多く、落雪のみならず、樹上から枯枝や折枝が落ちてくる危険が高まります。雪の重みで、生木や枯木が倒れてくるリスクもあります。常に状況判断を怠らず、そうした危険の可能性があると思われる場所はできるだけ避けて歩きましょう。

落氷

奥入瀬渓流は水の豊かな谷ですので、いたるところでみごとな氷柱を鑑賞することができます。近づいて観察したり、撮影したりすることが容易であるため、落氷によるリスクが非常に高い場所でもあります。気温の高い、暖かい日などはなるべく大きな氷には近づきすぎないようにしましょう。

雪崩

平坦な森の中は、山中とは異なり、大規模な雪崩との遭遇は少ないと思われますが、雪と斜面がある所では常に雪崩が発生する可能性があります。奥入瀬においては、崖のそばはどこでも雪崩が発生する可能性があるのだ、と留意しておきましょう。崖の上部に斜面が広がっていれば、雪崩が押し寄せてくることもあります。大雪時や晴天で冷え込んだ後の降雪時、などは特に注意が必要です。また気温が上がり、融雪が進む春に起きやすい雪崩もあります。大規模な地すべりのような現象で、大変危険です。クラックと呼ばれる雪の亀裂や雪しわの下方に発生することが多いので、そういったところを発見した場合は絶対に近づかないようにしましょう。

雪穴、枝など

雪の下にある空洞は、見た目には分かりづらく、急に足を取られたり、穴に落ちてしまったりすることがあります。すとんと落ちるだけなら笑いごとで済みますが、足をひねってしまって捻挫したり、思わぬ大怪我を負うこともあります。特に多いのが倒木の側、斜面、岩場、木の根元です。妙な雪の盛り上がりがある場所や、危険が予想される場所ではじゅうぶんな注意が必要です。また、木の枝が顔に当たらないよう、前方にも気を配ることを忘れてはなりません。雪の上ではつい足元にばかり注意が行きがちなので、枝による顔や目への刺傷も少なくありません。

渡渉および落水による水濡れ

奥入瀬渓流は水の豊かな谷ですので、いたるところでみごとな氷柱を鑑賞することができます。近づいて観察したり、撮影したりすることが容易であるため、落氷によるリスクが非常に高い場所でもあります。気温の高い、暖かい日などはなるべく大きな氷には近づきすぎないようにしましょう。

雪質による滑り

雪質は天候や気温により、さまざまに変化します。注意したいのはクラストと呼ばれる、固く凍った状態です。強風や急激な冷え込みによって発生します。たいへん滑りやすくなるため、十分な注意が必要です。国道でも、クラストした雪面で転倒したりすると時に大事に至ります。骨折や打撲、捻挫といった危険性が常にあることを忘れてはなりません。

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