危険動物―クマにあったらどうするか 危険動物―クマにあったらどうするか リスクマネジメント講座 奥入瀬フィールドミュージアム講座

質問 かつて奥入瀬の車道や遊歩道で、クマを見ることなどありませんでしたが、近年は出現が目立ってきました。奥入瀬を散策していて、クマに襲われる危険はないのでしょうか?

これまでに、事故が起こったことはありますか?

また、実際にクマに遭遇してしまった場合、どうしたらよいのでしょう。危険を避けるためには、どのようなことに注意したらよいですか?

自分や同行者が被害にあった場合、どのような処置・対応をしたらよいでしょうか?
回答 クマへの警戒は必要です

遊歩道や国道にいつクマが現れてもおかしくない場所である

確かに、ここ数年のクマの出現頻度は上がっています。
かつての出現頻度がどのくらいだったのか、何年くらい前から、奥入瀬のどこで、どのくらい出現率が上がったのかなどのデータがまったくない(どの公共機関もそうしたデータの収集・解析をしていない)ので、これはあくまでも地元ガイドの感覚の問題ですが、たとえば十和田市の公用車が「クマ出没注意」をアナウンスしながら奥入瀬の国道を往復するなどということは、少なくとも10年前にはありませんでした。
十和田湖畔や黄瀬林道の奥などでは、毎年、目撃例がありましたが、奥入瀬の遊歩道や国道にクマが現れて大騒ぎになるというのは、ここ数年の話です。過去3年間の目撃例からすると、紫明渓~黄瀬~惣辺間、石ケ戸周辺、平成の流れ、千筋の滝、雲井の滝あたりでの出没が目立っています。
このように、「クマはいても森の奥から出てくることはない」などといわれていたのは既に過去の話であり、現在では遊歩道や国道にいつクマが現れてもおかしくない場所であると、認識を改めなくてはならない状況となっているのは確かなことです。
これまで奥入瀬でクマによる人身事故が起こった事例はありません。しかし野生動物の行動は、人間には予測することができません。状況によって、あるいはその個体の特性によって、観光者が突然襲撃される危険性は十分にあると留意しておくべきでしょう。特に、人通りの少ない下流域では、一人歩きの際には十分な警戒が必要です。

クマにあわないためにはどうするか

残念ながら、その確かな方法はありません。
登山をする人の多くが「熊鈴」と呼ばれる鈴をザックや腰にぶら下げて、チリンチリンと大きな音を立てつつ歩いていることから、なるほど鈴で音を立てながら歩けばクマが近寄ってこないのだな、と盲信している人が少なくありません。
しかし「鈴の音が熊を追い払う」のではなく、「音を立てることでヒトの存在を先に知らしめさえすれば、あとはクマの方で先に遭遇を避けてくれる」というのが、これまでのセオリーだったのです。
しかし昨今では、そんな「常識」が通用しない状況も出てきました。人為的な音など、まったく気にしない個体も増えています。現に、車がひっきりなしに通行し、バイクが爆音を立てて通り過ぎ、うるさいくらい鈴を鳴らし歩く人を一向に気にせず、国道端に坐り込んで餌をはんだり、国道をスタスタ横断していくといった個体が、近年になってもう何頭も現われています。
見通しのきかない森の中の登山路で、こちらの存在を先に相手に気づかせる、という意味においては有効であろう熊鈴も、奥入瀬の国道沿いなどでは、あまり効果はないでしょう。むしろ、熊鈴を過信・盲信してしまうことで周囲への注意を怠ってしまい、すぐそばの存在に気づかず、逆に危険な状況を呼び込むことになってしまう可能性もあります。
鈴を鳴らしながら歩き、道路脇の斜面にたたずむカモシカにまったく気づかずに通り過ぎていくビジターは少なくありません。また、野生動物への基礎的な知識を持たず、道路脇に出てきたクマに餌を与えようとしていた観光客もいました。言語道断な所作ですが、そういう人も訪れる場所であるということを心にとめておく必要があります。
クマに逢わないようにするためには、できるだけ五感を働かせ、「音」や「臭い」や「気配」そして「雰囲気」などを察知し、危ういと思われる場所では、そのつど大声を出しながら歩く(鈴音には無反応でも、人の威嚇声には反応する個体が少なくないようです。ただし根拠はありません)そして襲撃された場合の防御策を常に頭に置いておく(たとえばクマ撃退スプレーを持参する)などの配慮以外、有効な手立てはなさそうです。

クマにあったらどうするか

  • 状況を判断する=クマとの距離や相手の行動(警戒・威嚇・逃避・無関心・採食など)
  • 目を離さずにじりじり後退する、もしくは車道に出て助けを求める。相手がいなくなるまで待つ。
  • にらみあう=「すぐに背を向けて逃げると追ってくるので、目を離さず、にらみつけろ」というのが熊対策のセオリーですが、即逃げて無事だった例もたくさんあります。にらみ合っていたら、逆に襲いかかってきたというケースもあります。
  • 熊撃退スプレーを使う=アタックをかけられたら、これは有効だと思われます。ただし誰もが冷静に噴射のアクションをとれるのか、タイミングを外さず的確に噴射できるのかというと、はなはだ心もとないというのが実情ではないかと思われます。
  • 大声で威嚇する=クマとの間に距離があり、相手がすでに逃げる態勢に入っている場合、わざわざ大声を出して相手を刺激する必要はないと思いますが、襲撃のそぶりを見せたり、アタックをかけられた場合には、怒鳴り声を間断なく張り上げることで撃退した例があります。気合の問題かもしれません。
  • 闘う=ナタや三脚を振り回して応戦し、撃退した例があります。アルミの軽量三脚では役に立ちそうもありませんが。
  • 防御姿勢でやり過ごす=頭部や首をガードして体をまるめ、襲撃をやり過ごす方法。助かるかどうかは運次第でしょう。

クマに襲われたらどうするか―ケガをした場合の処置・対応

クマは人間が敵わない強力な力を持っています。
鋭利な爪による一撃、強靭な顎の力による噛み傷で、傷病者は重症や死につながることもあります。
クマに襲われてケガをした場合には、適切な応急処置と素早い救助・応援の要請が必要です
応急処置に関してのポイントは、「止血」と「頭部へのダメージ」です。
クマに襲われた場合、運が良く生還出来たとしても、爪による引っ掻き傷や咬傷による大出血を伴う事がほとんどです。太い血管まで傷が達した場合には大量の出血が発生しますので、素早い止血が必要です(体内の血液量の約20%以上が短時間で失われると出血性ショックを引き起こします。30%以上の出血量は生命の危険に晒されます。
(参考:体重50kgの人の血液量は約4L)
またクマの前足による頭部への一撃(強力なパンチの様なイメージ)は致命的な外傷となり、脳へのダメージ、首や頸椎の骨折などは、死に至る直接の要因となります。
クマに襲われた時の防御策として頭部や首をガードするというのは、この様な理由からです。

野外では専門的な医療を受けるのに時間がかかります。 
リスクとの向き合い方も、市街地とは全く異なるという認識を持たなければなりません。

止血について

直接圧迫

外出血(血液が体外に流れ出る事)では出血が止まるまで患部を直接圧迫する事が基本的なコントロール方法です。
清潔で吸水性のあるガーゼやタオルなどを使って出血している傷の上から直接圧迫をします。
傷口をしっかり確認してから的確にピンポイントで止血点を抑える様にしましょう。
なお直接圧迫は往々にして圧迫の力が足りない事が多いです。
凝結作用のある血液の繊維物質が出血の圧によって破かれない様に、意図的に強く圧迫を続ける事が重要です。
もしガーゼやタオルから血液がしみ出てきたら、最初のガーゼ等は取らずに、その上から更に新しいものを追加して圧迫をしてください。ある程度、出血のコントロールが出来ているのであれば伸縮性包帯やゴムバンドなどで常に圧迫出来る状態にしておくと良いでしょう。
クマに襲われた場合、頭部への攻撃例が多いです。頭部は出血しやすい特徴がありますが直接圧迫の基本は変わりありませんので、しっかりとした直接圧迫で止血してください。

四肢の大出血の場合

基本の処置は直接圧迫ですが、それでも出血のコントロールが出来ない場合は止血帯(ターニケット)を使います。
市販のものは手軽に使えて使用は簡単です。間に合わせの止血帯の使用でも同じ様な効果は得られますが、止血帯は正しい訓練を受けていないと逆に危険を伴うこともあります。
止血帯の使用は必ず応急救護の訓練プログラムなどを受講してからにしましょう。

【重要】感染予防について

応急手当の現場では血液や体液に触れる事があります。
感染性の病気を防ぐ観点でも、バリアを装着する事は必要です。
一般的なバリアとしては、使い捨てのゴム手袋を推奨しております。未使用の手袋を何セットかは用意して自身のファーストエイドキットに入れておくと良いでしょう。
使用後は傷病者の血液や体液が自身の体に触れない様に注意して外してください。

頭部へのダメージ

前回のコラムで紹介しましたが、脳や頸椎のケガは命にかかわる重篤なケガです。
もし同行者がクマに襲われた場合、頭部へのダメージが大きい様であれば、無理に動かさないで体位を安定させ、救助の応援を待つ事が必要です。
もし傷病者に呼吸がなく、心肺停止の状況であれば、基本的な一時救命の処置をします。

感染症について

野生動物は唾液や体内に様々な細菌を保有している事があります。
傷口から細菌が入り込むことによって、アレルギー反応を起こしたり、破傷風などの感染症に罹り、生命の危険に関わる事もあります。
クマに襲われた場合には、小さな傷であっても清潔な水道水などで患部を洗い消毒してから専門の医療機関で診察を受けましょう。

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