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深いU字型の渓谷地形

奥入瀬の渓谷では、八甲田カルデラを起源とする火砕流の溶結凝灰岩(八甲田第一期火砕流堆積物)が目立ちます。 
溶結凝灰岩の下部には、「子ノ口層」(ねのくちそう)と呼ばれる、湖成層(こせいそう)の堆積岩が見られます。 
溶結凝灰岩の上部には、十和田火山(十和田カルデラ)起源の溶岩、火砕流、そして降下火砕物などからなる噴出物が堆積しています。 
奥入瀬の深いU字型の渓谷地形は、十和田カルデラの決壊による大洪水(約1万5千年前)が、溶結凝灰岩を侵食して形成されたものと見られています。

渓谷林の植生

渓谷内の主要な植生は、渓流沿いにおけるトチノキ・カツラ・サワグルミの渓谷林(渓畔林とも)および主に河成段丘上に群落を形成しているブナ林からなっています。 
その他、ドロノキ、ケヤキ、ミズナラなどの高木種が生育しています。 
亜高木ではカエデ類、アオダモ、ハクンボク、ミズキ、タニガワハンノキなどが、低木ではオオカメノキ、タニウツギ、ノリウツギ、コマユミ、ムラサキヤシオなどが多く生育しています。 
つる性の木本も豊富で、ほとんどの大径木にはツルアジサイ、イワガラミなどの着生が見られます。

渓谷内は全域で落葉広葉樹主体の森林となっており、針葉樹は植林されたスギおよびそこから播種されたものを除くと、高木の自生はありません。 
低木の自生種であるハイイヌガヤがよく目立つ程度です(ただし渓谷上部にはアカミノイヌツゲの群落が見られます)。

草本では、春先にキンポウゲ科のキクザキイチゲ、ニリンソウの群落が目を引くほか、遊歩道沿いにズダヤクシュ、オニシモツケ、ヤグルマソウ、エゾアジサイ、オオウバユリ、ヤマブキショウマ、ダイモンジソウ、オクトリカブトなどが開花するほか、ところどころにサイハイラン、コケイランなどのラン類が見られます。 
また個体数は非常に少ないのですが、ヒロハツリシュスラン、フガクスズムシソウなどの樹上着生ラン類や、菌従属栄養ランであるモイワラン、ツチアケビなどの生育は注目に値するでしょう。

隠花植物たち

流路内および林床には、崩落による転石群が目立ちます。それらはいずれも豊かな蘚苔類およびシダ類に覆われています。 
蘚苔類ではエビゴケ、ネズミノオゴケ、コツボゴケ、ジャゴケなど。シダ類ではオシダ、ジュウモンジシダ、リョウメンシダなどが目立ちます。特に樹幹や枝上にはオシャグジデンダ、ホテイシダ、シノブなど樹上着生型シダ類が多数生育しており、目を引きます。 
ブナの樹幹には、痂状・葉状の地衣類、枝上には樹状の地衣類の着生が目立ちます。

腐倒木には各種菌類や変形菌が出現します。これら隠花植物(花をつけずに胞子で増える植物のことで、通常は蘚苔類およびシダ類を指しますが、古くは地衣類や菌類までをも含めた博物学的総称)の豊富さも、奥入瀬の特徴となっています。特に蘚苔類の生息種数は300種以上あります。

主要な鳥獣虫魚

渓谷内の野生動物は、大型獣ではツキノワグマ、カモシカ、中型獣ではテン、アナグマ、ムササビなどが生息しています。小型獣では林床にノネズミ類、樹上にはモモンガが見られます。 
両生爬虫類ではヤマアカガエル、モリアオガエル、ヤマカガシの観察頻度が高いです。 
渓流の魚類は、冷温性サケ科魚類であるイワナ(アメマス)およびヤマメ(サクラマス)が主ですが、ヒメマスの姿も見かけます。

鳥類は100種類程度が確認されており、奥入瀬の主要種および特徴的な種としては、シノリガモ、クマタカ、ハチクマ、オオコノハズク、フクロウ、アカショウビン、ヤマセミ、オオアカゲラ、ハリオアマツバメ、カワガラス、ミソサザイ、キセキレイ、エゾムシクイ、オオルリ、キビタキなどがあげられます。

昆虫類では、スギタニルリシジミ、フジミドリシジミなど林梢性のシジミチョウ類や、トワダカワゲラに代表される水生昆虫、ミヤマクワガタやルリボシカミキリなどの甲虫類、エゾハルゼミ、コエゾゼミ、アカエゾゼミなどのセミ類、オニヤンマやカワトンボなどのトンボ類などが生息しています。

しかしながら、近年の奥入瀬渓流において、総合的な生物の学術調査が行われたことはなく、特に昆虫や菌類などの生息状況についてはよくわかっていないのが実情です。

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