自然度の高さと人為的影響 自然度の高さと人為的影響 エコツーリスム講座 奥入瀬フィールドミュージアム講座

手つかずの森ではない

奥入瀬の渓谷林およびブナ林は、木材や薪炭の供給地として、古くは江戸時代より伐採の影響を受けています。 
渓谷の上部での林業は、昭和30年頃まで続いていました。 
下流域のブナ林は、ほぼ二次林です。 
二次林とは、伐採や山火事などによって森が消滅したあと、自然または人為的に再生したものをいいます。 
奥入瀬全域が、まったく手つかずの原生林ということではないのです。

しかし明治の後期より、観光地としての注目を受けはじめたことで、流域の大規模な景観破壊は免れてきました。 
保護林としては、昭和3年に天然記念物指定を受け、同11年に国立公園、同26年に特別名勝、同27年に国立公園特別保護地区に指定されてきたという経緯があります。 
こうして現在に至るまで、渓谷内の森林は巨木の渓谷林として維持されてきました。 
2013年には、日本蘚苔類学会によって「日本の貴重なコケの森」の指定を受けています。

純度の高い「箱庭的自然」

平野部から丘陵地にかけての渓谷林およびブナ林が、ほぼ原生に近い天然林(主として自然の力によって成り立った森林のことで自然林ともいい、人工林に対して使われる語句です)として残されている地域は、いまや全国的にみても稀有な存在です。 
さらにカルデラ湖を水源とする、水量の安定した天然度の高い渓流河川となると、非常に貴重です。

こうした森と川に沿って、勾配の緩やかな優れた自然遊歩道(ネイチャートレイル)が10キロ以上に渡って整備された地域。これが奥入瀬の素晴らしさです。 
原生的な森、美しい渓流、素敵な遊歩道。いずれもそれぞれ各地にあるものですが、それらが三位一体となった場所となるとどうでしょう。 
しかも水量の安定によって、遊歩道が河道とほぼ同じ高さで続く場所となると、これはもはや本邦唯一といっても過言ではありません。

奥入瀬とは、人の生活圏に近い場所に残された、純度の高い「箱庭的自然」として、きわめて貴重な価値を有する地域なのです。 
しかし「美しい渓流」「紅葉のきれいな森」であるということ以上に、こうした魅力と価値について言及されたり、評価されたりすることは、実はこれまでほとんどなかったのです。

水量の安定は水門によるものではない

その一方で、発電事業に代表される十和田湖の水資源利用による渓流景観の維持、および河川生態系への影響といった問題も、奥入瀬という場所の特徴のひとつであるといえます。 
奥入瀬の渓流美は、水量の安定によって維持されています。 
そしてその安定は、「天然のダム」の役割を果たしている十和田湖および流域の森林の水源涵養機能によるものです。もとより洪水や増水の起きにくい環境が生んだ自然景観なのです。

巷間に流布されている、電力会社の「水量調節」によって景観が維持されている、という説明は、あたかも人為的な水量の調節が施されなくては維持できない景観であるかのような、誤った印象を与える意味で、適切ではありません。 
渓流の水量安定による景観美が、大町桂月によって、初めて世に喧伝されたのは明治41(1908)年のことでした。 
これは、電力会社の水門が稼働する昭和18(1943)年より35年も前のことなのです。 
奥入瀬の渓流美は、純粋に森と湖が作り出した自然景観なのです。決して人工的・人為的なものではありません。 
水門とは、あくまで発電を目的とした、湖からの流下水量を「制限」する施設に過ぎないのです。 
そして観光放流とは、その名称の通り、水資源の過剰奪取によって生じる景観への毀損(きそん)対策として、夏季間のみ行われているものです。 
この点を、観光関係者は特に留意しておく必要があるでしょう。 
仮に、十和田水力発電所の稼働が廃止され、子ノ口から水門が撤去されたとしても、奥入瀬の渓流景観に変化は生じません。 
むしろ夜間や冬季間の減水がなくなることで、健全な河川生態系が復活することでしょう。

人との関わりもテーマ

奥入瀬の自然の純度という観点からのみ見れば、将来的には、こうした建造物は撤去されるべき対象でありましょうが、別の見方をすれば、十和田湖・奥入瀬という自然と、明治から昭和の時代の人たちがどのように関わってきたのか、どのように資源利用と景観保全を両立させようとしてきたのか、ということを今に伝え、考えるヒントを与えてくれる、よき題材でもあります。

その他にも、国道102号による森林環境への影響、観光地としての影響、養蜂地としての利用、林業会社や学校が存在した時代など、奥入瀬は人との関わりが決して浅い地域ではありません。 
こうした社会的な側面もまた、エコツーリズムにおける重要な観光資源として着目されるべきことなのです。

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