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奥入瀬ならではの魅力と価値とはなにか

日本全国、あまたの観光地の、そのほとんどすべてが「美しい景観」をアピールしています。
そもそも、その地域の景色が美しいからこそ、観光地になったわけですから、渓流を自慢するにせよ紅葉を自慢するにせよ、似たようなところはたくさんあるわけです。
すなわち「美しい景観」というだけでは、その土地の魅力を語ったことにはならないのです。
その地域のなにがどう素晴らしいのでしょう。他の地域との差異はどこにあるのでしょう。
そういう視点で解析していかないかぎり、地域の本質を理解することはできないのではないでしょうか。
「景色がきれいだから」というだけでは、他所を知らないがゆえの単なる自画自賛ということにもなりかねません。
では、奥入瀬ならではの魅力・価値とは、どこにあるのでしょう。
私たちは、それをクオリティ&トレイル&アクセスの3点にまとめています。

QTA

ⅰ 上質な自然(Quality)

奥入瀬は、近年の日本ではすっかり稀有となった、瀬と淵、早瀬と平瀬が自然のままに連続する優れた天然河川の流域に、落葉広葉樹であるカツラ・トチノキ・サワグルミの高木を主体とした原生的な渓谷林が、約14キロにわたり途切れることなく現存するという貴重なエリアです。そして八甲田山・十和田火山を起源とする岩石が峡谷やロックガーデンを形成し、火山活動をいまに伝えるジオパーク的要素を備えています。さらに、それらの岩上には豊かなシダやコケなど隠花植物の存在によって、天然の「苔庭」のごとき景観が広がっていることも注目に値します。また、これらが山奥ではなく、人の生活圏にほど近い、低標高地に位置していることも重要です。こうした景観的・生態的・地史的に上質な自然環境が明治時代より評価され、現在、以下のような「冠」が授けられています。

  • 十和田八幡平国立公園(特別保護地区)
  • 国指定天然記念物(天然保護区域)
  • 国指定特別名勝
  • 日本の貴重なコケの森

ⅱ 優れた自然遊歩道(Trail)

渓流沿いに設けられた奥入瀬の自然遊歩道(ネイチャートレイル)は、全国でも類を見ない、非常に優れたものです。標高差200メートルを14キロかけて流下するため、1キロ歩いても14メートルしか勾配が変わらない、ほぼ平坦に近い緩やかさであることに加え、歩道と渓流の水面がほぼ同じ高さで連続するという親水性の高さはまさに特筆すべきものです。路面・道幅・障害物の整備についても景観を損なわない程度に抑えられているため、ビジターは体力的負荷をはじめ、歩行に関するストレスをほとんど感じることなく、特別保護地区の景観を構成する樹木や草花、シダやコケ、菌類や鳥獣など、自然界の「展示物」をゆっくりと観賞することができます。これは博物館や美術館での作品鑑賞に通ずる感覚であり、奥入瀬が自然観賞型のエコツーリズムにとって非常に優れたエリアであることを示しています。青橅山バイパス完成後に生じる静穏な環境によって、この比類なき魅力と価値が今後ますます高まることが予想されています。

奥入瀬渓流自然遊歩道の特長を整理すると、次の5点に集約されるでしょう。

  • 全域(約14キロ)におよぶ連続した森林環境
  • ほぼ平坦に近い緩やかな勾配と適度な歩道整備
  • 歩道が流れに近く、水面とほぼ同じ高さという高い親水性
  • 全域を貫通する車道の存在(アプローチとエスケープに優れている)
  • ほぼ全域が自然保護区内

これまでの奥入瀬観光は、森と渓流の景観美のみが注目され、こうした自然遊歩道の魅力と価値が正面から取り上げられることはまったくといってよいほどありませんでした。日本における「自然と親しむ」という行為が、「登山」に代表されるイメージによるところも大きかったこともあるでしょう。山岳地の遊歩道やトレッキングルートではない、こうした川や渓流沿いのネイチャートレイルは、日本ではわずかしかありません。しかも里地にほど近い標高において、こうした優れた渓谷林と渓流環境が保存されたエリアを、緩勾配の道が10キロ以上も連続する場所となると皆無です。
日本には「三大渓流」や「五大渓谷」などと呼ばれる景勝地があります(下表参照)。もっとも、これは公的に認められたものではなく、昭和の時代に流行した三大ナントカの俗例にすぎないもののようですが、一般に知名度の高い渓流とはどんなところか、ということはわかります。このいずれにも、上記の条件を満たした場所は見当たりません。また、このような「印象的な」ものではなく、実質的な自然要素の比較であっても、たとえば「自然が豊かである」ということでは定評のある北海道にしても、川や渓流沿いの自然遊歩道はほとんどないのが実情です。

ⅲ 便利なアクセス(Access)

奥入瀬は、人の生活圏からほど近い場所に位置する、きわめて訪ねやすい観光地です。観光道路と生活道路を兼ねた国道が、国立公園の特別保護地区内を貫通しているというのは、特筆に値するものでしょう。
一般に、自然の質が向上すればするほど、そのフィールドは人の生活圏から離れていくものです。逆に、人の生活圏に近くなればなるほど、自然の純度は落ちていく傾向にあります。奥入瀬は、そのバランスがとれていることが特長です。原生的な自然公園でありながら、アクセスがこれほど優良な自然公園は少ないのです。近隣の地元住民には、かえってこの価値が見えにくいのではないでしょうか。自然の専門家筋に、こうした価値が重視されることはあまりなく、これまで奥入瀬の優れたアクセスに関してはほとんど評価されることがありませんでしたが、自然志向の一般ビジターにとっては大変訪れやすい場所に位置しており、しかも車から降りてすぐ、あるいは宿泊地からすぐに優良なフィールドへアプローチできる点は大きな魅力であると思います。

  • 最寄りの新幹線駅から約1時間の距離
  • 最寄りの市街地から舗装路で峠越なしのアプローチが可能
  • 特別保護地区に利用域(車歩道)が重なる稀有な条件
  • 宿泊施設が遊歩道に直結

ただし公共交通機関によるアクセスについてはあまり評価することができません。冬季にはバス運行さえなくなってしまい、ホテルの送迎バスか自家用車もしくはレンタカーの使用が前提となるからです。これは今後の奥入瀬観光改革における大きな課題のひとつでありましょう。

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