水量の安定がもたらした緑の谷

奥入瀬の特色として、流域に点在する多くの岩が苔むし、そこから草や木が生育して天然の盆栽のような景観が見られます。大雨が降るとたいていの川は増水を起こすので、激流に洗われがちな岩には苔が定着できません。川の岩が苔むすということは、その流れの水量の安定を示しています。奥入瀬の源は、十和田湖という巨大な「天然のダム」なので、大雨が降ってもいったん湖が受け止めて、渓流への出水量を押さえます。加えて、なだらかな勾配も氾濫を起きにくくしています。安定した渓流沿いには森が発達します。ほとんど河川改修工事を受けておらず、水量の安定によって河岸ぎりぎりまで草木の繁茂した奥入瀬は、森と川の関係、川のあるべき姿を学ぶのに最適な緑の谷です。人がアクセスしやすい天然の自然河川の存在は、いまや大変貴重です。

流れのしくみを読む

出典「奥入瀬自然誌博物館」P31より

水の流れにも注目してみてください。流れの中心である「流心」からいくつにも分かれる「副流」、流心の両側で渦を巻く「逆流」など、川がただ単純に、真直ぐ一律に流れているのではなく、実はとても複雑で、いろいろな流れ方をしていることがわかります。

水を育む森

奥入瀬渓流の滝は、唯一本流にかかる銚子大滝以外すべて支流で、本流との落差が滝となっています。多くはブナの森の湧水が集まって流れ出しています。水を育む森のしくみの基本は落葉にあります。雨水は樹々の樹幹に受け止められ、林内雨そして樹幹流となって林床に達します。落葉がたっぷり蓄積された林床やその下の腐植土層が、水を貯めるダムの役割を果たします。森に降る雨や雪は、こうして落葉のふとんに浸透し、涵養され、ゆっくりと流れ出し、やがて支流や滝となって渓流と一本化していきます。

倒木の効用

書籍「奥入瀬自然誌博物館」P58より

河川に滞留した倒木は、都市河川ではまず例外なく治水上の問題から撤去されてしまいます。しかし奥入瀬渓流は国立公園の特別保護地区であるため、歩道や車道に支障を与えない範囲での倒木については、基本的に自然のままです。よって奥入瀬は、川に岸辺の樹が倒れ込むとどのような生態的効果が現れるのか。それを間近に観察できる貴重なエリアとなっています。

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